朝、ホテルのレストランで、コーヒーとクッキーをつまみながら、居心地の良いこの村にしばらくステイしようか…と、そう思っていた。
ホテルの中は、奥様の手作りのレースが所狭しと飾られ、趣味の良さが感じられる。とても温かい空間だ。
もう一泊するつもりで荷物をそのままにして、ぶらりと散歩に出た。
山と山に挟まれた村。細い路地をくねくねと歩く。
村の建物は、ほとんど遺跡のような趣だ。
実際、数百年はたっているであろう。
路地を曲がると玄関のポーチで、縫い物をしている黒装束の老婦人が見える。
きっと、民族衣装なのであろう。ここが、私にとって異国の土地なんだと、
思い出させる。
ジュースの瓶を入れるカラフルなプラスチックBoxを、
いくつもロバの背中にくくりつけている老人がいる。
村の教会の鐘が30分毎に時をつげる。
とてものどかだ。
だけど…
…………………………so what !
私のハートはもっと刺激を求めてしまう。
Lipoと過ごした、いつもそこに死があるという緊張感の中での生活と、
Lipoがいなくなってからの、一人で頑張って生きていかなくちゃという緊張感が私にまとわりつく。
悲しいかな……。
こののどかな世界でリラックスできない私がいる。
常に常に、前進、前進しようとしている。
あ~! リラックスした~い!
どこか、観光地に行って、観光客に徹してみようと思った。
海が見たい!
海に行こう!
地図を見ると、そこから南西のところに、大昔、人が住んでいた洞窟がビーチ沿いにあるマタラという場所があった。
そこに行く事にした。
急いで荷物ををまとめてチェックアウトをした。
ホテルのオーナーの御夫婦はとても残念そうに、また戻ってきてねとおしゃってくださった。
南西に直接繋がる道は無くて、一度北に行き、空港近辺を通っていかなくてはならない。
空港辺りに近づくにつれて、私の直観が鈍ってくる。
同じところをグルグルとまわり、なかなか行きたい道に出れない。
スーパーが見えたので、そこに車を停めて女性に質問した。
女性は、「ここから、かなり遠いわよ。私にはそれしかわからない。
多分、あっちに向かうと良い。」と指でさし示した。
でも私には違うように感じた。
スーパーの中に入り、ぐるりと見渡した。
たくさんいる人の中で、30代の一人の男性が気になった。
この人に聞いてみよう。
行きたい道に出るのにはどうしたら良いかときいたら、難しい顔をしながら、
複雑で説明ができないという。
大まかに、「あっちにいって、こっちに行って…」と説明する。
まあいいか、どうにかなるか、と思いながら、ポテトチップスを買って車に乗り込んだ。
隣に駐車している車の中を見たらさっきの男の人だった。
男の人は、「僕の車についておいで!その道まで先導するよ。」と言ってくれた。
路地をグルグル迷路の様に進んだ。これは複雑だわ…。
数分走ったら、大きな道に出た。
その手前で男の人は車を停めて、この道を数時間真っ直ぐに進んだら、そこに着くよ、と言った。
私は、窓を開けて、手を合わせながらサンキューと男の人に御礼を言って、その道を進んだ。
ありがたい先導だった。
くねくね山道を進む。
日が沈む頃、マタラについた。
宿が並ぶ中、心の赴くままに、一件の宿に入った。
オーナーが電話をしながら出てきた。
部屋はあるかと聞いたら、まずは見てから決めなさいという。
見せてもらった。一泊30ユーロ。文句無くOK!
部屋に荷物を運んですぐにビーチに行った。
わーー!!
ビーチの横に白い岸壁が突き出ていて、穴がぼこぼこ空いている。
洞窟だ。
夕日を浴びて、白い岩がオレンジ色に輝いている。
ビーチで足を水に浸してから、洞窟まで歩く。
人が住んでいた跡がある。
きれいに穴が掘られていて、続きの間につながる通り口まである。
祭壇ぽい台が作られている部屋もある。
昨日の、ゼウスの洞窟を見た時もそうだったが、ここもみんなに見せてあげたいって、心底思った。
夕陽が海の向こうにオレンジ色に輝きながら沈んで行くのを、砂浜に座りながら眺めた。
今日で巡礼の旅は終えて、明日からバケーションに徹しようと思った。